赦し―長崎市長本島等伝

 本島氏について長年私は、被爆地、長崎の政治家であり天皇の戦争責任にふれたことからてっきりかっての革新サイド、おそらくは社会党の政治家だと思い込んでいた。本書を読んでそれが先入観からの大きな誤解であったことを知った。まさか、自民党の県連幹事長までつとめた生粋の保守政治家であったとは想像もしなかった。


 正直なところ本書を手に取ったのはたまたま目にしたからであり、とりあえず資料として読んでおくかといった程度の動機しかなかった。しかし、読み進めていくうちに、はじめはまったく興味がなかった本島等という政治家にぐいぐいひきつけられていくのがわかった。


 貧困と差別の中から出発し政治家としての道を力強く歩んでいく本島氏。時には、法律の枠を踏み越えてでも弱い立場の人を救おうとする。けっしてスマートでも論理的でもない。時には自らの手を汚すこともいとわない。だが、人間的な情にあふれていて人をひきつける。自民党が長い間政権を維持し続けることができたのは、考え方の違いにはとらわれず本島氏のような強力な人間力の持ち主を多くぬえのように党内に抱え込むことができたからではないかと感じた。


 理屈では人は動かない。ただ、理屈がなければ社会制度を形作っていくことができない。情と理がバランスよく融合した政治家を得る事の難しさ。そんなことを本書を読みながらあらためて考えた。


赦し―長崎市長本島等伝

赦し―長崎市長本島等伝