日本型デモクラシーの逆説―2世議員はなぜ生まれるのか

 あとがきより本書の骨格について「さて本書は、日本のデモクラシーを考える上で避けることのできない課題を取り扱っている。後援会である。そして後援会と二世議員の関係を論じ、二世議員と当選回数主義を結びつけて分析してみた。」


 20年近く前に今日の自民党が陥っている危機の原因がpolitical recruitment(直訳は政治上の新人募集だが、政治的リクルートメント訳すと良いのだろうか、ざっと調べた限りでは決まった対訳はなさそうだった。筆者は政治への新たな人材導入を意味する言葉として捉え使用している)にあると見事に分析して見せた好著。


 ほとんど一般に本書が知られていないのが残念だが、今日おこなわれている世襲政治家批判にまつわる論点(政治資金の継承の問題は除く、ただしこれは世襲議員固有の問題ではない)のほとんどは筆者がすでに整理し提示している。


 本書では、近年は一般的になった世襲議員という言葉はあいまいさを含むことからもちいず、厳密な定義をおこなったうえで2世議員という言葉を使用している(本書でいう2世議員とは、衆議院議員としての選挙地盤を親族から継承し当選した議員のことをいう)。その上でいくつかの代表的な2世議員の家系を取り上げてその特徴を解説し2世議員が増加している傾向を統計でみていく。


 90年代のはじめは、自民党政権がまさに絶頂期を迎えていたころであり、強力な後援会に支えられた保守政治家が、当選回数主義に基づく人事制度の下で自民党内で競争をおこない、勝ち上がった者が政界で活躍するというシステムが完全に出来上がった時期である。


 しかし、自民党を恒久的な繁栄に導くと思われたこのシステムが、筆者が指摘するように大企業病的に自民党自身を蝕んでいくとは、この時点では一部の論者しかその可能性を指摘することができなかった。今日的な視点で見ると自民党が、新たな人材のリクルートの仕組みと当選回数主義に変わる人事のシステムを開発することができなかったことが、自民党自身の首を致命的に絞めることになったのはもはや明白といっていい。にもかかわらず自民党は新たなシステムを見出せないでいる。おそらく、再度、下野することでしかこの状態を打開することはできないのではないだろうか。


 こうした自民党病ともいえる弊害を打開するアイデアとして筆者は、本書の中で後援会を「株」化し売買できるようにする。参院を上院化し総理以下の有力議員の指定席とすることで議会の新陳代謝を図るなどのプランを提案しており、やや荒唐無稽なところもあるが思考実験としては大変面白い。こうした実験を早い時期に自民党が取り入れていれば、現在のような事態は避けられたかもしれない。


 巻末資料「2世議員の地盤継承表」は、明治から平成に入るまでの親族による国会議員地盤の継承を一覧にした労作であり一読の価値あり。