あいちの政治史

 再読。中日新聞社会部が戦後三十年余りを契機にとして総力をあげて、地方の政治の記録を徹底的な取材でまとめた労作。戦後、三十六年という時間の流れは、一つの世代が退場していくには十分な時間で、あいちの政治史をつくった証人たちに直接取材をおこなうには、取材後なくなる方もでるなどぎりぎりのタイミングだったようだ。


 本書では、各政党のあいちにおける戦後の歩みがさまざまな政治家たちの証言によって複眼的な視点で語られる。大変興味深い話のオンパレードで、本当に史的価値のある証言ばかりが、紹介されている。名古屋の自民党から国政で大物政治家が出なかった理由や当時すでに愛知では退潮傾向にあった社会党の党内事情。左、右の党内対立の源泉、公明党共産党が戦後党勢をどのように拡大していったのか、そして、民社党が愛知では特異といっていいほど強い勢力を持つことができた訳などを理解することができる。


 こうした地方の目から見た政治史、国政のみならず地方政界のうごきも含めた地方政治史を記録して一冊にまとめ出版する試みは、全国的にみても数少ないといってよく、本書の取材をおこなった当時の中日新聞社会部の皆さんに心から敬意を表したい。もっとこうした試みが定期的に新聞のみなならず、ジャーナリズム全体や学術研究も含めて、さまざまなメディアでおこなわれるべきだと私は思う。政治が形作られていく過程は、さまざまな政治家、人間の思いの相克の歴史でもある。政治史は多様な証言者によって複眼的に語られてこそ、はじめて俯瞰して見ることができるからだ。


 本書の出版から、また、30年近くがたった。この間、細川連立政権の成立、自社さ政権、自自公連立、民主党の結党、自公連立と中央政界の構図はめまぐるしく変わった。その余波は、あいちの政治史にも大きく影響をあたえており、ぜひ、再び取材をおこない、「新あいちの政治史」として世に問うてほしい。あらためてそう考えた。

あいちの政治史

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