自由と民主主義をもうやめる (幻冬舎新書)

 講演会で話した内容を基にして文章をおこしているので、少し説明が荒く感じるところもあるが、保守とは何かということについて簡便に理解を深めるには最適の書。


冷戦期のように左翼陣営と保守陣営の対立軸が社会主義か自由な資本主義化と単純な2項対立で理解されていた時代が終わりあらためて保守の意味や進歩主義、左翼の意味を問う必要があるのではないか。人は、パンのみにて生きるにあらず。自覚的であるか無自覚であるかは別として、なんらかの価値の体系、思想に影響を受けてあるいはよって立って生きている。


特に保守を軸足をおくことは、無意識におこなわれている傾向が強いと私は考えている。保守の本質とは、過去から現在に蓄積されてきた価値の体系、先人から受け継がれてきた慣習とか習慣とよべるものを大事にし、文字通り保守することであり、より自覚的であるならば、それらを守り保ちつつ進歩や理念による安易な現行の社会制度の変化を疑うことである。


筆者は伝統や慣習がなぜ需要なのかということを欧米や日本の歴史上の出来事などを例に引きながら、安易な進歩主義を批判しつつわかりやすく論じている。愛国心については時間の制約があったせいか、やや拙速に説明して終わっているが、保守の意味や価値については大変わかりやすく述べていると感じた。ただ日本人は、何を保守すべきかというところでは「和」や「義」、「無常」を国是とすべきとしており、そうした価値を基にして統治をおこなうべきと論じている点については、そうしたものをどのようにして現実の統治機構や施策の中に落としていくのか、あまりイメージができず。また、もろ手をあげて簡単には賛意を示せないと直感的に感じる部分もあった。


とはいえ、単純な新米が保守ではないといった基本的なことを抑える意味では最適な入門書だと思う。本書の帯のキャッチコピーには。「オヤジ保守が嫌いな人のための保守入門」とあり、うまいコピーが考えた者だと感心した。マチズモあふれる自称保守派のおっさん連中にはせめて本書だけでも読んでから発言してほしいものだと思った(笑)

自由と民主主義をもうやめる (幻冬舎新書)

自由と民主主義をもうやめる (幻冬舎新書)

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