昭和史の決定的瞬間 2006年01月22日 00:46

 現在、歴史を語るときに多くの人は、2つの潮流の影響を受けているのではないか。一つは、新しい歴史教科書を創る会のように過剰な戦前の日本国への思い入れをもって歴史を語る立場。もう一つは、国家を感じさせる価値に対して徹底して懐疑の精神を持って歴史語る立場。


 坂野潤治は、両者のいずれの位置にも立っていない。氏の学問の対象は、明治、大正、昭和前期と多岐にわたるが、いずれの著作でも一貫している主張がある。


 明治以降の日本には、官民ともに連綿として自由主義への努力を続ける勢力が一定あったが、残念ながら戦前にはその努力が実ることはなかった。しかし、その努力は一定評価するべきであり敬意を持つべきではないか。


 戦後日本に民主主義が一定レベル定着したのも、どの程度評価するかどうかは個々人の判断によって違うにしても、こうした先人達の努力が実ったものだといえるのではないか。


 戦前は、楽園だ暗黒時代だと決め付けて安易に唱えるわけでなく、事実丹念に掘り起こし、積み上げて坂野氏は、この仮説を論証をおこなう。


 史学を学んだわけでない私には、学術的な妥当性というものもちろんわからない。しかし、静かな筆致で書かれた著述には、一定の信頼がおける。


 私は、国家や歴史というものについて考えるときに精神の高揚も敵意も必要ないと考えている。先人の営みに静かな敬意を感じながら、冷静に事実を評価し分析するべきだと思う。


 うまく書ききれないが、感情が論理を支配して声を発するそんな状況に陥ることは慎みたいものだと思う。そうした状況におかれたとき坂野氏の著作は冷静さを取り戻させる手助けをしてくれる。


 氏の著作については、集中的に読んだ時期があるので、また取り上げていきたい。

昭和史の決定的瞬間 (ちくま新書)

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