−小泉が強いのではない− 強くなったのは首相の権力であると筆者は分析する。
個別の政策に対する評価は別として小泉総理がこれまでの総理にないリーダーシップを発揮してきたことについては、国民の中で、一定の共有がなされているのではないか。本書では、その力を支える仕組みについて分析がなされる。
93年以降の連立内閣の歴史は、そのまま、内閣機能の強化と、首相の権力の強化の歴史であると言い換えらことができる。筆者はこの10数年の日本政治の歩みをたどりながら、日本の政治体制における自民党の派閥による支配が、首相による支配へと変化していくさまを節目節目の制度の変更を抑えながら論証していく。
ポイントはいくつかあるが記憶に残った順にあげると、選挙制度の小選挙区への移行、首相の地位獲得、政権の維持に世論の支持が重要視されるようになった、内閣府の機能強化、参議院の自民党過半数割れを背景として参院議員の力が増大したこと。そうした政治体制の変化を背景として首相権力の強化はゆるぎないようにみえる。
しかし、すでに水面下では巻き返しもおこなわれているようだ。自民党総裁選における党員・地方投票と議員投票を同日におこなうとする規定の改正がおこなわれたと目にしたが、これは、派閥による首相選出のコントロールを取り戻そうという意図のもとにおこなわれたものであり、首相のリーダーシップを削ごうとする試み(ありていにいえば権力闘争)であるといえる。
これは一例だが、ポスト小泉の総理大臣が誰になろうとも、首相が強力な権力を維持し、リーダーシップを発揮するためには、この種の圧力に今後ともあがらい続ける必要があるといえる。
首相の権力が強まることで社会制度をダイナミックに変化させることができる。また、制度変更による社会的責任の所在が、政策の決定過程が首相とその補佐機構に集中することによってはっきりするという効果もあるだろう。こうした首相の権力強化によるメリットは決してはけっして小さいものではないと思うが、急激な制度変更による社会への影響はけってして小さいものではない。
私は、必ずしも社会の急激な変化、変化そのものを良とする思考を好まないが、そうした考え方に立つと首相支配の強化に一抹の危惧を覚えないでもない。おそらく、首相の権力強化に相対するものとして軌道修正をおこなう社会制度の成熟が
必要なのではないか。わかりやすいものとしては、政権交代可能な政治体制があると思うが、日本の現在の野党はそうした期待に応えうる存在とはまだなりえていないのではないか。
そうした関心から、筆者には、日本の政党政治、議会における野党の役割についてあらためて詳細な分析を今後おこなってもらいたいと感じた。
- 作者: 竹中治堅
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/05/24
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