そろそろ全部話しましょう―オーラルヒストリー

 特に盛り上がるところがある回顧ではないのだが、半日かけて一気に読んでしまった。55年体制下のごく平均的な保守政治家(3役も経験されているので平均より少し上と書かないと失礼かもしないが)の姿が素直に語られている。派閥政治のどろどろとした所には、あまり首を突っ込まなかったとのことで全体を通じて国会や党に関わる話が多い。


 誰もが知る業績を持っているわけではないが、時代、時代にそつなく仕事をこなし順調にキャリアを重ね、引退後もそれなりの処遇を受けて人生を過ごす。いい時代があったものだ。特に伊藤隆東京大学名誉教授らを交えて鼎談に近い形をとっている後半部分の回顧を読む中で、そうした印象を強くうけた。


 また、本筋にはあまり関係ない余談の部分が記憶に残った。戦前の高級官僚の家庭の様子、砂防協会の運営についての話、国会には前議員室があるなど。後世、多くの人に記憶される政治家ではないが、ご本人があとがきで述べておられるとおり「落葉は落葉なりに歴史であり記憶である」。これが、オーラルヒストリーの醍醐味だと感じた。

そろそろ全部話しましょう―唐澤俊二郎オーラルヒストリー

そろそろ全部話しましょう―唐澤俊二郎オーラルヒストリー