夕刻のコペルニクス

 まだ新右翼としての荒々しさが残っていたころの鈴木邦男の本。週刊SPA!で好評を得た人気コラムをまとめたもの。


 例えば本書の中では、右翼らしい活動、報道機関や役所に対する抗議活動の様子はもちろんのこと内ゲバ死体遺棄、殺人といった話がどんどん紹介される。これだけ出てくると、逆にユーモラスに感じるようになるから不思議だ。


 本書の中で取り上げられることの中にはそんな風なめちゃくちゃでみとめられないと感じる事実もあった。鈴木さんも過去の自分行動については反省されているようだが、いくら動機が至純であるからといって肉体言語に訴えていいというものではないということは、最低限確認しておかないといけないだろう。もっとも私も肉体言語の行使に共感してしまいそうになることが心の内ににないではないのだけど・・・


 ともかくこの本が興味深い内容であることは間違いない。私の感性がねじれているせいかもしれなが、読んでいて思わず笑みがこぼれることが多かった。苦笑いと笑いの中間ぐらいの笑いだけれども。でも、人の心を本当に揺さぶるのは、うまい文章ではなく本当の思いを書いた文章だけだと思う。


 それにしても鈴木さんは、本当に純粋な人なのだなと感じた。発言の機会が与えられたことを貴重なことととらえて、真摯に悩みながら文章を書いていることがつたわってくる。


 まだ、本書が上梓された時点では文章も荒々しい気持ちのほとばしり前面に出ているものが多いが、近年、出版された鈴木さんの本からはそうした荒々しさが内に引っ込み(なくなったわけではないと思う)、落ち着いた文章になっている。私は、そうした近年の著作から鈴木さんの本は読み始めたので本書を読んだとき最初は違和感があった。しかし、考えてみるとこうした荒々しさを内包しているから、鈴木さんの本には魅力があるのだということに本書を読んで気付かされた。

夕刻のコペルニクス

夕刻のコペルニクス