ニッポンの知識人

 現代の日本の知識人を思想地図を3人の評論家の鼎談の形で紹介したユニークな書。前半部は鼎談だが、後半部は知識人ミシュランと題して代表的な各分野の個々の知識人の思想概要を解説をおこなっている。


 細分化された日本の思想状況を鳥瞰して一度見てみたい人にはぜひ本書をお奨めしたい。10年前の書なので登場する知識人は多少古びた人物も混じっているが、大きな状況は変わっていないので十分参考になるはずだ。


 いわゆる日本の知識人の思想地図に関心のある人であればp122〜123に掲載されている知識人マップを眺めるだけでも相当楽しめるはずだ。東西の軸を軍事・国家・ナショナリズム⇔人権・大衆・デモクラティズム。南北の軸を市場・自己責任・個人⇔共同体・保護・伝統としてマップをつくりその中に個人名をマッピングしてある。


 一部を紹介すると例えば、軍事・国家・ナショナリズムの軸の先には、西尾幹二石原慎太郎藤岡信勝福田恒存の名が記されている。一方、人権・大衆・デモクラティズムの軸の先には吉本隆明大月隆寛姜尚中らの名がある。市場・自己責任・個人の軸の先には、大前研一竹中平蔵笠井潔が登場し、共同体・保護・伝統の軸の先には梅原猛木村敏松本健一の名がある。また、中心点に位置しているのが、中沢伸一と蓮見重彦であるのが面白い。


 本書の出版から10年の月日が経った、日本の思想地図も少し変わってきている部分もある。そろそろ改訂版を出してもいいのではないか。鼎談のはじめで自らのことを「琵琶法師とか、辻説法師の類。大衆とともに生き、大衆とともに死ぬ。」と言い切った宮崎哲弥は、メディアを通じて大衆の海の中に入り、まさしく多くの大衆が知る有力な存在となった。彼がまだ本書のような知識人のマッピングに関心を持ち知識の収集、蓄積を続けているのなら、また、新たな形でその成果を世に問うてほしい。本書を再読し、読了した後そう強く感じた。

ニッポンの知識人

ニッポンの知識人