著者は、江戸や明治の官僚制の研究で実績のある行政学者。直接丸山真男の指導を受けた期間は短かいが、節目節目で学恩があったとのこと。
私の世代では、丸山真男といっても高校の国語の教科書に小論が掲載されていた程度で、ほとんどの忘れ去られた存在だった。私は、大学時代に政治学を学んだが、丸山については政治学概論で1時間に満たない程度の時間、簡単にふれられただけだった。しかし、50〜60年代を学生として過ごした世代には、政治学を学んだかどうかに関わらず大きな影響力を持っていたと聞く。
今日、学者の専門性については、社会から相対的な捉え方がなされており、一芸に秀でているからといって、他の社会的な現象に理解が深いなどという理解はなされない。しかし、60年代か70年代までは、一定の知識人信仰があった。一握りの社会の真理を理解した賢者と、社会の真理を論理では捉えていないが、経験、皮膚感覚から捉える大衆。そんな社会的な図式が、まだある程度共有された時代。そうした時代の知識人の中で丸山は、スターだった。(ご本人は、そんな意識を持ってはいなかったと思うが)
筆者は、そうした自分たちの世代にとっては巨人だった丸山の論跡に対して、透徹した論理で批評おこなう。丸山にとってかなり手厳しい批判をおこないながらも、それがかえって真摯な筆者の姿勢と丸山に対する敬意であると感じられ、私は筆者に対して大変好感を持った。
本書の中では、いわゆる知識人としての丸山の活動について批評がなされており、本来の研究テーマで日本思想史といった業績については、ほとんど取り上げられない。研究者としての丸山の全体像について理解を深めたい方には、お奨めできない。しかし、敬意を持って批評をおこなうとはどういうことか、そうした視点について考えたい方には、ぜひお奨めしたい。
- 作者: 水谷三公
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2004/08/06
- メディア: 新書
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