瀬島龍三や野中広務についてのノンフィクションで有名な筆者が、月刊誌等に掲載した文章を新書にまとめたもの。1時間程度でさっと読んだ。読んでいる途中で何となく一度読んだことがあるようなと既視感を覚えた。てっきり書下ろしと思って買ったため不思議な感覚を味わった。
さて、本書ではNHKへの政治介入についての検証や「タウンミーティング」やらせ事件などを中心として行政とメディアの関係が論じらている。一般的には、多くの人が興味を持つであろうこの点よりも私は、筆者の共同通信の社員時代についての回想に強い興味を持った。
筆者が共同通信に入社した1970年代には、社内には自由な議論を尊び取材対象との衝突を恐れない空気があり、上司は、部下のそうした姿勢を守ったそうだ。その当時は、ほとんど普段は仕事らしい仕事はしていないが、専門とする取材対象に対しては喰らいついて誰もが唸る様な記事を書く記者がいて、また、そうした仕事(ある意味好きなことだけやればいいのだから、社会人としてはとても恵まれた環境だと思う)振りを許される風潮が社にもあったと回想している。ところが時代が進むにつれて管理が強化されそうした気風を持つことは許されなくなったという、筆者もそうした流れの中で記事に横槍を入れられることが幾度かあり結局退社にいたったとのことだ。有体に言ってしまえば、政界や官庁と衝突することを恐れて官製のリリースをただ垂れ流すだけの存在になってしまっていると筆者は指摘しているのだと思う。
こうした話を反骨がゆるされた時代のノスタルジーとして切り捨ててしまうことは簡単だけれども、このような話については、私も実際にメディア関係者から似たような話を聞いたことがある。また、皮膚感覚としては筆者がいうような状況にメディアの実態はそのような形に陥りつつあるのかもしれないと感じる。本当の所はどうなのだろうか。本書を一読した後、多くの書物がメディアについてすでに取り上げているけれども、筆者が書く本格的な新聞メディア論を読んでみたいという思いにかられた。
- 作者: 魚住昭
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2007/04/10
- メディア: 新書
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