季刊で発行されている保守系の総合誌、一部では根強いファンがいて案外売れているとのうわさは聞いていたけど読むのはじめてだったが、期待していた以上に面白かった。元々は御厨貴東京大学先端科学技術研究センター教授のオーラルヒストリーについての連載「近代思想の対比列伝−オーラルヒストリーから見る」を読みたくて中古で安く取り寄せただけだで、その他については、そう期待していなかっただけにうれしい誤算だった。
たまたまテーマが「人づくりの日本と世界」で、人材育成を扱った内容が多かったことが関心を持てた理由かもしれないと思う。特に興味深かったものをいくつかあげると、日本的同調主義社会にあがらうことができる政治家がなぜ育たないかを論じた、筒井清忠「日本ではなぜ政治家は育たないのか」、アメリカの共和党の政治家(政治業界)人材養成の手法について詳細に紹介した、久保文明「アメリカの政治家はどう育てられているか」、20世紀のアメリカの対日政策の担い手(ジャパンハンド)たちの人脈の流れを整理した、村田晃嗣「対日政策をつくるアメリカ人群像」(テレビで時折見かける彼の言説にはそれほど感銘を受けた記憶ははないが本論は興味深かった)などがある。
そうした一連の論考の中で、群を抜いて最も興味深かく意義があったものは、筒井清忠が聞き手を務め防衛大学長の五百旗頭真におこなったインタビュー「日本の防衛エリートの濫用」だと思う。
2008年、幹部自衛官の発言が問題となりマスメディアを賑せた。発言の評価は別として、自衛官の教育、ひいては幹部自衛官のそれはどうなっているのかということが大変私は気になっていた。見落としてしまっているだけかもしれないが、当時、発言そのものと発言した個人への報道が集中し、あまりその点はメディアでは検証されなかったと記憶している。
本インタビューはあくまで防衛大学校の学長が防衛大学の教育について答えたものなので、話の中心は防衛大学の成り立ちや教育のカリキュラムが中心となるっている。また、インタビュー自体も2007年におこなわれたものだ(ひょっとしたら2009年であったらこのインタビューを実現することは難しかったかもしれない。考えすぎかもしれないが)。しかし、一部、幹部自衛官の養成について話している部分がある。五百旗頭氏は、現在の幹部自衛官への教育は、国際的な視野に立って大局的な判断を下せるような人材を育てるような十分な教育訓練になっていないという認識を示している。「高い国家戦略的レベルの教育訓練が弱い」とまで述べている。これを読んで私は至極納得がいった。ああ、やはりそういう状況にあるのだなと。その点が確認できただけでもこの総合誌を購入した価値はあったと考えている。
さて、肝心の御厨氏の連載の方だが、対比列伝(著名な人物でキャリアや人格の似た者を二人一組にして対比しながら論じる)という最近はあまり試みられなくなった手法をとって後藤田正晴と矢口洪一(元最高裁長官)を比較し論じている。こちらも今後連載が進み彼らの社会的地位が上がるにつれてさらに面白いものになりそうで、これは続刊をぜひ購入せねばとの決意を新たにした。
- 作者: アステイオン編集委員会
- 出版社/メーカー: 阪急コミュニケーションズ
- 発売日: 2007/04/01
- メディア: 単行本
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