街道をゆく (12) 2009年04月22日 17:35

 昔、職場の上司に薦められて本書を購入した。たまたま、今日、掃除をしていたところ書類の山の間から、薄い文庫が出てきたなと思ったら本書だった。司馬さんの作品は、10代のころに戦国時代を舞台にした作品を中心に小説は半ば程度は読破したが、街道を行くシリーズをはじめとした紀行やエッセイ、随筆の類はほとんど未読のままだ。


 十津川村については、おそらくNHKだったと思うが、村の歴史をドキュメンタリー化したものを見た記憶がある。司馬さんは、本書で明治維新が終わるまで、十津川村は日本国においてだれの領地にもならなかった村だという意味のことを書いている。と聞くと何か伝奇小説の題材になるような特異性を持つ村を想像してしまいそうになるが、そのドキュメンタリーで見た十津川村は、私にとっては、比較的奥深い山間にあるとはいえ、子供のころから自分が慣れ親しんだ、見慣れた山村でしかなかった。


 本書を読んだときに、そうしたリアルタイムで感じた感覚と十津川村の特異な歴史がうまく自分の中で混ざり合わず、少し消化不良のような状態になったことを覚えている。しかし、日本のどこにでもありそうな山村が「十津川共和国」ともいえる今風に言えば自治独立を古代から明治まで守ってきたということは、やはり特別なことなのだろう。


 司馬さんは十津川村が歴史について、現代と幕末明治期を中心として、時代、時代のさまざまなエピソードを本書のなかで紹介している。しかし、もうひとつ私にはしっくりと十津川村という存在が腹におちてこないのだ。やはり一度村に行ってみなければ本当のことはわからないということなのだろう。いや、たとえ足を運んだとしても自分がどんな感覚を覚えるのか、今は想像の範疇を超えることはできない。ともかく、奇妙な読後感が残る一冊だった。


 それにしても私の元上司はなぜ私に本書を薦めたのか、機会があればその理由を聞いてみたいと思う。

街道をゆく (12) (朝日文芸文庫 (し1-13))

街道をゆく (12) (朝日文芸文庫 (し1-13))