ヒラリーをさがせ! (文春新書 617) 2009年04月16日 19:04

 根本的に視点が違う。これは、斬新だ。誰とは言わないが、テレビによく出演している政治評論家の爺様たちは筆者に席を譲ったほうがいい。破壊力が違う(ただし私が見た限りでは筆者は、時折テレビ見かける際には、文書を書いた際の切れ味がなぜかなく大人しいコメントに終始している印象なので不思議だ。何か遠大な戦略があるのだろうか?)。初版出版時の帯の煽りが、佐藤優国家の罠)・上杉隆(官邸崩壊)両氏公認本とあるのもうなずける。目次を追うだけでもこれだけ楽しい政治本は滅多にない。


 一部、章立てや見出しに使われている単語を紹介すると、序章:女のキャリアすごろく、「Anecan」「バリキャリ」「女王蜂系」、第一章:総「理の椅子」狙う女たち、「過剰な「鎧」と「虚勢」」「男系女」、第二章:スキャンダルにさらされて「もらいなきを熱唱」、第三章:女性枠はありがた迷惑「40歳過ぎてミニスカート」、第四章:選挙−究極のジェンダーフリー。これらの単語を見るだけで政治好きならずとも、必ず手に取り買いたくなるほどのインパクトをもっていると私は思ったが、本書が2008年度のベストセラー新書になったとは聞かないのであまり売れなかったのだろうか。


 タイトルが微妙だったのがいけないかったのか。考えてみるとこの時期大統領選の前哨戦をひかえて日本でも注目されていた人物とはいえ「ヒラリーをさがせ」というのはあまりひねりがない。例えば、第一章の小見出しの中にある「バリキャリ」から「Anecan」へ辺りをタイトルにした方がインパクトがあったのではないか。まあ、だれも政治の本と思ってくれないかもしれないが・・・この辺りは、編集者のセンスのせいかもしれないので筆者の落ち度ではない可能性もあるが。


 そういうえば立ち読みで斜め読みしただけなので申し訳ないが、確か筆者の最初の著書は「私の愛した官僚たち」だったと思う。これももう一つなネーミングだなと感じたのを覚えている(だから購入は控えました。すみません。)だが、内容はエリート意識と権力志向、プライドだけは高くマチズモにあふれた男性キャリア官僚を叩ききっていて非常に面白かったのを覚えている。


 本書で筆者は、インタビューした女性政治家たちから非常に面白いコメント多く引き出している、例えば、野田聖子から政治家にとっては無駄な人間関係が意外と大事であるといった話を引き出しているが、これは非常に政治の妙を心得たキーといってもいい部分で、この箇所だけでも政治家志望の人は読んでおいて損はないと思う。


 将来の女性総理になりうる女性議員を見出す、あるいは資質を問うといったところに本書の本来のテーマはあるのだと思うが、そのこと以上に政治の本質を見事に抉って書き記すことに成功していると感じた。


 ともかく色々書きましたが、本書はお薦めの一冊です。政治に関心がなくとも有意な人間論として読んでおいて損はないと思います。


 エピローグで筆者は、本来のテーマから離れてしまったのではないかと感じたのか、「男性社会に対する恨みの書になってしまったような気がして、今も心許ない。」と記しているが、あれほどの女性蔑視、男性優位、セクハラの連発の世界は他に類を見ないと思いますので、まあ、その点に関しては個人的な経験からも男の私がいうのも何ですが、無理もないのではと思いますよ。しかも改善の兆しがみえるかというと限りなく微妙な気もするぐらいですので。

ヒラリーをさがせ! (文春新書)

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