城下の人―石光真清の手記 1 2007年10月21日 23:44

 ずいぶん前に一度読んだ本で、なぜかふと懐かしくなり書棚から引き出してあらためて読んだ。


 慶応四年、明治維新の年に、まだ、武家社会が色濃く残る肥後で生まれた石光真清が軍人となりシベリアや満州で諜報活動に携わる。後に志し破れ隠遁する彼の半生を全4巻で描く大作。1巻目の本書では、神風連の乱西南の役という武士が否定されていく仮定を少年の目で見て率直に描かれている。ある一つの価値がくずれていく様には、胸を撃たれた。


 石光は世渡り上手とはいえず報われぬ生涯をおくるのだが、そうした石光の生涯は本書で描かれる武士たちの姿とオーバーラップしてみえた。結局のところ慎ましくとも地道な日々を積み上げるものだけが幸せを手に出来るということなのであれば、それが正論であり現実とわかっていてもあまりにも悲しく感じた。

城下の人―石光真清の手記 1 (中公文庫)

城下の人―石光真清の手記 1 (中公文庫)