安政五年の大脱走 2006年05月05日 22:45

 芸達者な作家さんでうまくまとまっているのだけど、登場人物の書き込みが甘く感じて、物語に感情移入ができませんでした。

 井伊直弼の若かりし日の屈辱の経験が、権力を得たとき、昔手に入れることができなかった女性の娘を無理やり手に入れるという妄執を生むのですが、その辺りのくだりは悪くなく、むしろよく書けていると感じました。


 しかし、この小説、登場人物の人物がよくつかめなかったです。やはりもう少し心理描写などを丁寧におこなってほしかった。なぜ彼女のために藩士は奮闘するのか、まあ、武士の意地だといえばそれまでなんですが、作中ではシンボリックに忠誠の対象として彼女を置いているわけですから、彼女についてのエピソードに厚みを持たせるなどして、動機付けが必要なのではないかと。


 クライマックスの脱出トリックのネタが簡単によめるのは、トリックを重視しない私にはあまり気にならないのですが、謎解きを重視するタイプの方にはその点も不評でしょうね。


 筆者の著作は何冊か読みましたが、物語の幕の引き方が、あまり上手くないように感じます。文章はスラスラと読めるのですが・・・

安政五年の大脱走 (幻冬舎文庫)

安政五年の大脱走 (幻冬舎文庫)